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国際寺山修司学会の歩み 清水義和

 1994年ロンドン大学に留学中、筆者はブラッドビー教授から寺山修司研究を勧められた。当時、寺山の文献はアルトーやブレヒトやベケットやグロトフスキとの関係を調査する為に現在ほど豊富ではなかった。だから「寺山の知られざる海外演劇活動を解明すべく国際的な学会があったら」と嘆息した。帰国後10年余り、寺山と海外演劇との関連を調べている間に元天井桟敷関係者から寺山が国際的な演劇と深く接触していたことを知った。それと共に寺山が世界の演劇と関わった業績を研究する学会設立の機運が高まった。

 2006年5月6日国際寺山修司学会(名古屋市市民会館)で、ロンドン大学のブラッドビー教授やソウル大学のリー教授と連携を計りながら国際寺山修司学会を設立した。先ずリー教授が基調講演を行い、その要旨がインターネットで世界に発信された。また、寺山元夫人・九條今日子さんは、森崎偏陸氏から紹介された。その九條さんと萩原朔美氏(多摩美術大学教授)・本島薫氏が集まりシンポジウム「寺山修司と名古屋」を開催した。更に天野天街氏(少年王者館主宰)が挨拶し、馬場駿吉氏(名古屋ボストン美術館館長・俳人)が「寺山修司の俳句と短歌」を講演した。

 

 2006年10月21日国際寺山修司学会第2回秋季大会(愛知学院大学)で、九條さんが「素顔の寺山修司」を萩原氏が「寺山修司の映像表現」を講演。馬場氏が「漂流するイメージ-寺山修司の俳句」を講演した。

 

 2007年3月20日国際寺山修司学会第3回春季大会(青森大学)を開催。久慈きみ代氏(青森大学教授)の尽力で、寺山の知人たち、京武久美氏、寺山孝四郎氏、新谷ひろし氏、高木保氏らとの交流が始まった。対談で、新谷氏は『暖流』と寺山の関係、佐々木英明氏(詩人・元天井桟敷)は天井桟敷と寺山の関係を語った。

 

 2007年5月12日国際寺山修司学会第4回春季大会(愛知学院大学)で、九條さんが「寺山修司と私-さ迷いも収まって―」を語り、対談「寺山修司と愛知万博・エデインバラ演劇祭受賞・海外公演」でJ・A・シーザー氏(万有引力主宰)が高取英氏(京都精華大学教授)と話しあった。寺山の俳句・短歌について榎本了壱氏(京都造形芸術大学教授)が「寺山修司の俳句について」を、野島直子氏が「『ラカンで読む寺山修司の世界』の俳句について」を講演した。

 

 2007年5月15日『寺山修司研究』創刊号の刊行。

 

 2007年10月16日から17日まで早稲田大学で「寺山修司のすべて」があり、『田園に死す』『さらば映画よ』を上映。シンポジウムでは司会安藤紘平(早稲田大学院教授)氏、パネリストに山田太一、篠田正浩、萩原朔美、九條今日子氏らが寺山との交友を披露した。

2008年5月10日国際寺山修司学会第5回春季大会(青森大学)で、初めに第15回寺山修司忌があり、九條さんが寺山とのエピソードを語った。寺山が作詩した校歌斉唱があり、次いで国際寺山修司学会青森大会記念シンポジウムが開催され、九條・金澤茂(青森高校時代の友人)2

佐々木英明・霜田千代麿(グロトフスキ研究家)氏らが寺山との想い出を語った。続いて朗読劇「隠遁へのメタファ」を佐々木英明・福士正一(舞踏家)・青森大学劇団「健康」・文芸部「幸畑文学」らによって上演。同時開催として青森県近代文学館館長の黒岩恭介氏の尽力で寺山関係資料(山形健次郎氏との往復書簡等)の展示と馬場氏久慈氏並びに筆者が講演。

 

 2008年9月30日『寺山修司研究』第2号を刊行。

 

 2008年10月4日国際寺山修司学会第6回秋季大会(愛知学院大学)で、馬場氏の講演「寺山修司の俳句と短歌」があり、桂木美砂氏が「ラ・ママ実験劇場エレン・スチュワートの『私は彼を寺山と呼んだことはない。いつも修司だった』」と題しエレン・スチュアートとの単独インタビューを通しての研究を発表。また、学会の悲願であった寺山の『さらば映画よ』を劇団翠主宰登り山美穂子演出によって上演。配役:中年の女/宮城ちか。小間使/瀬戸あゆみ。映画氏/特別出演(愛知学院大学演劇部)らが好演。

 

 2008年11月17日~19日早稲田大学で国際研究集会60年代演劇再考が開催され、エレン・スチュアートが講演。更に、司会安藤紘平、パネラー萩原朔美、九條今日子氏らによる寺山映画のシンポジウムを開催。また、白石征氏は、九條さんから紹介された。白石氏は遊行舎を主宰し『しんとく丸』を上演、『寺山修司の劇』や『寺山修司作品集』を刊行。

 

 2009年5月16日国際寺山修司学会第7回春季大会(愛知学院大学)を開催。九條さんから、ウイスコンシ大学准教授のスティーヴン・リジリー氏を紹介された。リジリー氏は「寺山修司とカウンターカルチャー」を研究発表。また、リジリー氏の招聘で、御茶ノ水大学大学院生の久保陽子氏がウイスコンシ大学に留学、その成果を次回の第8回寺山学会で発表。馬場氏が「漂流する寺山修司の俳句と短歌ー反復、転位、引用におけるゴーギャンとの共通性ー」と題し、寺山の俳句短歌の作詩法とゴーギャンの画法との関係をコラージュの視点から論じた。

 

 2009年11月6日『寺山修司研究』第3号を刊行。ウイスコンシ大学准教授のリジリー氏の紹介でカリフォルニア大学のミリアム・サッス准教授の論文を掲載。

 

 2009年11月6日~8日「演劇大学in愛知」の「寺山修司特集」で『狂人教育』『ある男ある夏』を上演。流山児祥氏らとのシンポジウムで、寺山没後27年の現在を演出家と研究者の立場から分析。また国際寺山修司学会第8回秋季大会を愛知芸術文化センター・アートスペースE・Fで開催。馬場氏が「シュルレアリストとしての寺山修司」と題し寺山とシュルレアリスムの関係を講演。

国際寺山修司学会活動の分析馬場氏が寺山の俳句短歌をゴーギャンからシュルレアリスムへ展開。天野氏が新解釈で『田園に死す』を演出。『寺山修司研究』では、筆者が寺山を海外演劇と比較研究。北山長貴氏は寺山訳『マザーグース』の研究。久慈きみ代氏は寺山初期の俳句短歌研究。小菅麻起子氏は寺山の歌集研究。守安敏久氏は寺山のラジオドラマ研究をそれぞれ展開。今後、国際交流や共同研究はリジリー准教授やサッス准教授の参入にかかっている。更に若い研究者、久保陽子、堀江秀史、清水杏奴氏らの寺山研究に期待がある。

 

 『寺山修司研究』の課題は独創的な寺山俳句短歌論が必須。また寺山の映像は、萩原朔美氏や安藤紘平氏がカメラの技術革新を網羅的に駆使し制作した映像との比較と解明が急務。このような課題を抱え、国際寺山修司学会は来年設立5周年を迎える。更に、3年後の寺山没後30年記念に、海外の寺山研究と共同を可能にするレヴェルアップを目指す。

 

まとめ

 国際寺山修司学会は寺山と国際的な演劇との関係を究明する趣旨で発足した。馬場氏が寺山とゴーギャンのコラージュの比較や寺山とシュルレアリスムの解析した講演は、寺山俳句短歌論に新機軸を拓いた。また、寺山研究では、筆者が寺山の『田園に死す』がスピルバーグの『ET』や天野氏の『トワイライツ』に与えた影響を究明。更に寺山がガリレオの数学や物理学で宇宙を解明した方法を、自作の『盲人書簡』『地球空洞説』『レミング』で如何に取り込み劇作したかを考察。また『さらば箱舟』に描かれた宇宙のビッグバンと寺山の子宮回帰との因果関係を研究している。こうして、国際寺山修司学会は、寺山が常に新しい分野を拓き続けた業績を考究している。

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